三日目  20081128(金)
晴れているが雲の流れが速い。一日中快晴だった。


AM.7:00AM.:00  (風速8m)
久美原風車を再び体感。

風の強い音と共に、回転の速いブレードの規則的な音が聞こえてくる。
この風速下での風車の騒音は相当うるさい。しかし、これが風車としては一番安定している状態だという。先に表現した『上空をいつまでたっても去っていかない飛行機』は、『低空で飛び続けるセスナ機』となっている。
部屋の中にいて、風のある時と無い時を比べて気がついた事は、からだに受けるなんとも言えない圧迫感は、風が強くて風車がガンガン回っている時よりも、ゆ〜っくり回っている時の方がきついという事だ。

AM.11:00  (風速9m)
昨日も訪れた《渥美風力発電所》(ベスタス・2,000kw4基・南伊豆町に建つ風車と同じ)へ到着。

今日は丘の上に建つ3基の方まで上って行く事ができた。風が強いので、ブレードがすごい速さで回っている。しかし、調子よく回っているのは2基。あとの2基は僅かに回ってみたり止まってみたり。何故回っていないのだろう?点検だろうか?

頂上近くの風車まで行って息をのんだ!太陽の光を受けて建つ風車が落とすその『影』の大きさ!晴れていれば影はできる。巨大な風車は影も巨大だ。その巨大な影が、丘いっぱいにグルン・グルンと回る異様な景色。光がさんさんと降り注ぐ草原地で、常に規則的に目線のどこかを横切っていく“ 黒い影 。岩や立木など、少しでも凹凸があるとそこを斬りつけるように影が走りつい目を奪われてしまう。起伏のある地面では、ブレードの影はぐんにゃり曲がって回る。
そして午後の影はどんどん伸びて行く。視線をそらしても視界に入るので、目まで回ってきた。きっと月夜の晩にも、昼同様の事が起きるのだろう。からだが昨日のように辛くなってきたので、丘を下る事にした。

昨日、様子を見に行った集落(風車から800m〜1km)へ足を向ける。
この集落では、騒音に関しては“聴こえても気にならない人”、“騒音には気付かない人”、“我慢できるという人”、など様々だ。

しかし以前、1kmと少し離れた一画でも、やはり苦情や問題が上がったという。
現在は何故か、何らかの事情により騒ぎは沈下し、住民は口を閉ざしてしまった、との話を耳にした。

渥美風力発電所、南伊豆町と同じベスタス 2000kw


 
PM.3:00
259
号線をトヨタ自動車工場に向かって進む。海岸線沿い、宇津江付近だろうか。海を見ようと道路をはずれて海岸に出た。風が強く、湾内遠くまで波が立っている。
左は半島突端、最西の渥美風車群、右は田原市最東にある臨海公園の田原臨海風車群、その地点からそれぞれ15kmは離れているのに、風車群を一望できる。
海を見ながら半島に広がる景色は『工業地帯』という印象。どこを向いても風車ばかりで、まさに『風車半島』・・・。
のどかだった であろう美しい畑の続く風景は、景観も考えずにぼこぼこ建てられた送電塔と、あちらこちらに張られた送電線で あやとりのようになっている。

静岡県も、『風車半島・伊豆半島』と目標を立てているらしいが、伊豆半島の人々は本当にこのような半島になる事を望んでいるのだろうか?

PM.5:30  (風速16m)
《田原臨海風力発電所》
ベスタス 2,000kw 11
ベスタス 1,980kw 1基

()ジェイウインド田原」
合資/トヨタ()・電源開発()(Jパワー)

R259から田原臨海風力発電所を望む(ベスタス 1980kw,2000 kw


この2社合資で行っている風力発電所は、エコ・パークに4基、トヨタ自動車敷地内に7基。同じ敷地内にある、もう1基は「()ウィンドテック田原」が行っている。
道路を鋏んだ向こう側の分譲住宅地は近いところでも風車から1km は離れている。

この状況ならば、以前 事業者が私に言ったように、「問題や苦痛を感じている方はいない」かもしれないと思っていたのだが、地元の店や地元の方々の話を伺って驚いた。

C 田原臨海風力発電所近隣の方々の話

「この地域で風車による被害が全くないとは、とんでもない!ただ、言えないだけだ。」
おおやけに口を開く事ができなければ問題を抱えている人がいても、“ 問題なし ”と事業者や自治体に片付けられてしまうという事だ。しかし、問題はあった。

「喉まで出かかっているが、言えない。」
「この町は『 T社に 食わせてもらっている』という意識がある。」

個人宅では毎年、盆・正月に頂きものをする。しかし受けとれば、T社に 関する事には口をつぐむしかないし、地区でみんなに配られるものを受け取らない訳にはいかない。「問題があっても、それを言えるような状況下に置かれていない。我慢をするしかない。」

転勤族もいる。「そういう家族は数年で引っ越すので、敢えて口を開くことはしない。」

「この距離でも風車からの騒音・低周波で眠れない・耳が痛い・・・など、いろいろな症状が出ている人はいる。地元住民で耐えられなくなった人達は、家を出て遠くへ移動してしまった。」

「社員の中にも持ち家の人はいるが、住めなくて家を捨てて移動した人もいる。」
被害に遭われている人々が移動して、そこに人がいなくなれば
「被害はない(事業者の
発言)という事なのだろう。

田原臨海風力発電所

PM. 7:00  (風速16m)
《田原臨海風力発電所》
《田原風力発電所》

ベスタス・2,000kw11基
ベスタス・1,980kw・1基

2,000kwは、南伊豆町に建つ風車と同じ出力だが、タワーの高さが11m低い。)


田原臨海エコパーク内の風車 ベスタス 2000kw

風速計は14.5m16mの間をいったりきたりしている。車から降りると、台風のように吹きつける風に身体ごと飛ばされそうだった。瞬間的に18mまで上がる事もあった。暗闇に白いタワーが浮かび上がり、上ではブレードが吠えている。
夜の風車は更に大きく感じられ、驚異的な圧迫感がある。工業地帯の中にあってさえ、強烈なインパクトを与えるこの巨大な物体が、静かな夜の山々と星空だけを仰ぐ南伊豆の民家の間近に十何基も建ったら・・・と想像してしまった。一体、どれだけの苦痛を強いられるのか恐怖である。
風車から400m離れた場所でさえ、たくさんの風車の合成音に包まれていた。
風車の下で一晩 車中泊して、低周波の実情を体験するつもりで来ていたのが、この騒音には気がめいってしまった。
8:00頃、お話を聞かせてくださるというSさんという方から携帯電話に連絡があり、やっとその場から逃げ出す決心がついた。


PM. 9:00
Sさんはのお宅は、風車からかなり離れたところに在る。
平成16年には、そこも風力発電所の候補地にあがっていた。そして“M社”が事前説明をしに自治会、並びに土地改良区とそれぞれにやって来た。その時に土地改良区で行われた説明会の内容を話してくださった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

D Sさんの話
「その頃、私は土地改良区の役員だったので、事前説明で立ち合う事になった。

風車そのものについては、平成16年のその時点ではよくわからなかった。」
しかし、事業者の説明する内容がおかしい事に気付いた。
“M社”は、風力発電事業を説明する話の中に、この町が困っている“産廃不法投棄問題”をあげ、「風車が建てば不法投棄は止まる。」と言ってきた。どこに根拠があるのかSさんが聞くと、「千葉県のある地域で、風力発電所ができてから不法投棄が止まった。」と事業者は言った。

・・それはおかしいとSさんは思ったそうだ。


「私は産廃問題にずっと関わってきたので知っているのだが、あれは産廃Gメンの働きや、知事が変わったりした等、他の要因で止まったのであって、風力発電事業によって止まったのではない。千葉県の風車建設前に、産廃の不法投棄は既に止まっていた。風力発電所ができたのは、それから随分後の事。他にも『風車が建てば観光地になる』とか、地元が欲しがりそうな話を、さも簡単に手に入るかのように言った」

「次に、環境影響調査をやるにあたって、この辺は渡り鳥が多いし、バードストライクの心配もあるので、こちらから、この辺りの野鳥について詳しい“ O先生 ”を推薦した。すると事業者は、『その人は、色がついているからダメだ。我々の方できちんとやる。』と言い出した。」
しかし、この地域で野鳥のアセスといったら彼以外に適任者はいない。現地の人達は皆、そういう見解を持っている。なのに、それが駄目だというのはおかしな話ではないか。

業者は、最初から『建設ありき』『建設が前提』で話を持ってきているのではないのか?」

Sさんは風車に関して疑問に思った事がもうひとつあった


「当時はまだ、風車から出る騒音や低周波被害の事は何も知られていなかった。

市にも、現在のような『民家から半径300m離す』というガイドラインは無かった。それなのに、事業者の方から『風車を300m離す』と言ってきた。『300m以内に民家がある場合は、同意を得てから進める。』と言う。何故300mなのだ? 300m離すという事は、そこに何か問題があるからではないのか?」と尋ねると、『それはない。自主規制だ。』と業者は言った。」

それもおかしいではないか。安全なものなら距離を離す必要はないし、民家のすぐ横でも建てたらよい。“危険な何か”がそこにあるから、自主規制をするのではないのか?土地改良区役員として Sさんは、「風車を建てるにあたって300m以内の民家の同意を得るなら、民家だけでなく、300m以内全ての土地の権利者の同意書を揃えてもらわないと、風車建設に賛成することはできない」と伝えた。

 300mの意味も明確に伝えぬうちに同意を取り、風車を建てるなどというのは、それこそ業者の『建設ありき』の体制が見え隠れする。更に、自治会に年間・1基40万円 × 基数分の協力金を毎年出すという。「金を渡すという事は、何かの我慢料ではないのか?」  金をもらってしまったら、建設後に何か問題が起こったとしても、もう文句は言えないという事ではないのか?

「その時は、“風車はよいもの”と思っていたので、風車自体がおかしいとは思わなかった。勿論、自治会役員の中には事業者の説明について、疑問を持たなかった者もいる。」
「しかし私は、事業の説明内容や進め方、やり方がすごくおかしいと感じた。」

「事業者と何度かやり合っているうちに、そこに風車を建設する話はなくなった。」

・・・・・・・・・・・・・・・・

Sさんのように、地域の代表の方々が影に隠れている嘘に気づき、目の前の欲や誘惑、巧みな言葉に騙されず、きちんとその後を深く考え、事業者と対峙しなければ、事業者のやりたいように進められてしまう。地域の代表となる人間は、人々を守る義務があるはずである。事業者の説明を鵜呑みにせず、その先に起こりうるリスクを考えなければいけない。行政や地区の代表が迂濶であれば、あとは住民達が勇気と意志を強く持つしかない。 建ってしまったら、もう遅い”のだ。

前のページへ | 次のページへ

inserted by FC2 system