「超低周波・低周波音が生体に与える影響」

(アルヴェス・ペレイラ、カステロ・ブランコ両博士の病理学的・臨床核的研究の概要)
Mariana Alves Pereira ERISA,Lusofona University, Lisbon,Portugal
Nuno A.A.Castelo Branco??? Center for Human Performance, Alverca,Portugal

08年10月7日 S・K

(使用論文)
@ Vibroacoustic disease:Biological effect of infrasound and low-frequency noise
explained by mechanotransduction cellular signaling
A Public health and noise exposure:the importance of frequency noise
B Infrasound and low frequency noise dose responses:Contributions
C The scientific arguments against vibroacoustic disease
D In-Home Wind Turbine Nose Is Conductive to Vibroacoustici Disease

 

T、はじめに

1、ポルトガルにおける研究の経過と風車の超低周波・低周波騒音
 低周波音健康被害は70年代以降、高速道路建設整備、米軍基地における軍用機の離発着及びタッチ&ゴー訓練の増加、工場のフル稼働による機械騒音、家電製品の静穏化に伴う周波数の低減化などにより周辺住民の健康を脅かす深刻な問題であった。

 最近では、政府は、国際社会から地球温暖化防止のためCO2排出削減が求められ、京都議定書の6%削減国際公約達成の名の下に、補助金による新エネルギー利用促進を図る政策誘導を強化、風車乱立の現状を招いて超低周波・低周波騒音による健康被害者を増大させている。国は被害者の訴えに耳を貸すことをせず、被害者は切り捨てられたまま、彼らの言葉を使えば生殺しのような状態に放置され、地獄のような生活に苦しみ悩みながら耐えている。

 ポルトガルでは1960年代、航空機の製造・修理・再製造施設(OGMA)の医務官長に任命されたカステロ・ブランコ博士によりOGMAで働く労働者の健康管理上の調査から癲癇の多発が発見され、それが遅発性癲癇と診断されたことから、神経生理学的研究が始められた。研究では、癲癇から騒音に対する過敏症、血管とのかかわりなどが疑われるようになり、これらの神経学上の病理は振動の過度の曝露によるものと考えられるようになった。??

 1987年、ある航空技術者の検視解剖により、生前に発作の起こらない梗塞発生の痕跡11ヶ所、生前には発見されなかった悪性腫瘍2ヶ所(腎臓と脳)、血管壁・ 心膜の肥厚、肺の繊維症が見つかった。これらのことから1993年以降、「振動響症候群」の病名のもと、動物実験、病理学研究、疫学調査など各種研究・調査が進められ、1999年に「振動音響病」(VAD)の病名が定められた。そして現在にいたるまで超低周波・低周波騒音(ILFN)が生体に与える影響についての病理学的、臨床学的、疫学的研究が続けられている。

 風力発電施設が発生させる超低周波・低周波騒音(ILFN)が健康に与える影についての研究は2006年以降に取り組み始められたようである。論文発表は昨年、フランスのリヨンでの第2回風車騒音国際会議でのペレイラ・ブランコ両博士の研究発表が初めてらしい。しかし、1980年代からの音響振動が生体にどのような影響を与えるか、「振動音響病」(VAD)の研究の蓄積があるポルトガルでは今後、風車の超低周波・低周波騒音の健康への影響が医学的に、特に病理学的、臨床学的な面から究明されることが期待できる。

 ポルトガルにおける「振動音響病」(VAD)の研究内容は、日本では潜在化していてまったく理解されていない超低周波・低周波音による慢性的な健康被害の原因について明らかにするものであり、風車による健康被害についても、その病理を明らかにし、症状、病状の進行状態や変化の様態を教えてくれる貴重な資料を提供してくれるものである。

 2、音に関するいくつかの問題(○内の数字は前掲論文番号)

@超低周波音の周波数範囲は、国際的に20Hz〜0Hzと規定されている。

A低周波音の周波数範囲は国際的に確立されていない。日本では普通、超低周波音を含めて100Hz以下の周波数帯域を低周波音域としている。環境省は超低周波音域を含めて80Hz以下の周波数帯域を低周波音域とし、参照値などを定めている。

Bアルヴェス・ペレイラ博士は、500Hz〜20 Hzの周波数域を低周波騒音域とし、20 Hz以下の超低周波域と区別しつつ超低周波・低周波騒音を「ILFN」としている。「ILFN」は「Infrasound and low frequency noise」の略である。

C低周波音の周波数範囲は、国、研究者により異なるようである。

D可聴域の音は国際的に20Hz〜20000Hzとされる。100 Hz以下の低周波音周波数帯域の音は可聴域に含まれるとしても、聴覚的には非適合的であり、聴こえにくい音、あるいは身体で感じることができる音とされる。アルヴェス・ペレイラ博士は人の聴覚に適合する音(もっとも敏感になる音響の窓)の周波数範囲は500 Hz〜8000 Hzとしている。@

Eこのことから騒音と低周波音の測定上の区別が不明確になっているように思える。

Fいわゆる騒音の測定では、人の聴覚特性にあわせて、特に200 Hz以下の周波数帯域の音のエネルギー量を減算して測定・算出される。100 Hz以下の低周波数帯域ではエネルギーのマイナス量は非常に大きくなる。これをA特性補正というが、国際的に認定されている測定量である。

GWHOの「環境騒音のガイドライン」は、低周波音成分を多く含む場合、A特性補正による測定・評価は不適切であると指摘している。アルヴェス・ペレイラ博士も同様の見解を示している。博士は、A特性測定・評価では「500 Hz以下で起きるすべての音響エネルギーを過小評価し、20Hz以下の音響エネルギーは無視することになる。」と述べている。@

H「難聴」は可聴域の音(騒音)に過剰にさらされたことによる心身への影響として一般に認められている。(アルヴェス・ペレイラ教授は難聴の原因は500Hz〜8000 Hzの過度の音響曝露としている。@

I超低周波・低周波騒音の過度の曝露による健康被害は、ポルトガルでは振動音響病(VAD)として一部認められつつある。公認はされていない。国際的にもこれを認める国はない。

J聴覚的には聴こえるはずがない50000Hzを超える高周波音に一定時間さらされていると、人はトランス状態に陥ることが、日本の研究者(機関)によって実証されている。バリ島の舞踏劇に用いられる可聴音とともに高周波音を発するというガムラン、テクテカンという楽器の演奏による舞踏劇の演者は、劇が始まって1時間ほどで憑依状態になることから、このときの演者の脳波、血液の状態、脳活動の様子について陽電子断層撮影装置などを使って調べると、可聴音+高周波音は脳幹や感覚情報にかかわる視床及び自立神経やホルモン調節の視床下部の血流が増加し、α波が増大していることが解かった。また、その音がどのように脳に達しているのかを実験により検証すると「高周波音は聴覚ではなく体全体で感じている」ことが解明されている。(朝日新聞、be on sunday)超低周波・低周波音曝露による生体への影響を考える時、「聴こえない超低周波音が生体に影響を与えるはずがない」という主張への反証として、このことは示唆的である。

U、ペレイラ・ブランコ両博士の病理学的・臨床学的研究概要

1、「超低周波・低周波騒音が生体に与える影響」に関する病理学的・臨床学的研究の基本認識

@超低周波・低周波騒音に曝露された生体は、波動による共振から自己の統合性を保護するために、細胞レベルでユニットとして、たとえば肺、腎臓、心膜、血管などの臓器ごとに細胞外マトリックスを肥厚(細胞間充填物質としてコラーゲンとエラスチンの2種類の蛋白質を生成・増加させる。)させて共振の影響からユニットの統合性を保持しようとする。

A曝露期間が短期の場合は、徐々に統合性は回復される。

B長期間にわたる過度の曝露では、回復は困難となり、ユニットの統合性は失われ、 細胞死(破壊)にいたる。

Cまたこの段階までに、細胞の異変、染色体異常が起き、ガン性の病変細胞組織の誘発、催奇性の発現が見られるようになる。

2、マウスを使った動物実験による超低周波・低周波騒音の生物への影響
(○内の数字は前掲論文番号)

@超低周波・低周波騒音の48時間連続曝露によるウイスターラットの気管上皮の変化(曝露環境におかない管理集団との比較)の実験では、曝露終了後、管理集団のラットとともに2匹ずつを解剖、気管上皮をSEM画像で比較診断、曝露したラットには大きなダメージが見られた。その後、6、12、24、48時間、および7日間静寂の中に置いた後、2匹ずつ解剖、曝露による気管上皮のダメージの回復には7日間を要した。曝露後7日間で曝露集団と管理集団との差が見られなくなった。(最小回復時間は12時間)B

A1日8時間、週5日、週末は静寂という人の職場環境と同じ条件の中での曝露実験では、ウイスターラットの3世代目に催奇性の奇形が見られた。B

Bグループごとに分けて145時間、235時間、2213時間、2438時間、4399時間、 5304時間曝露した状態では、各グループともに呼吸器官の病変、およびその進行が見られた。B

C2438時間のグループでは画像診断により細胞の脱分化が見られた。これはガン 性の病変細胞組織の前駆状態である。B

Dまた、2213時間グループで微絨毛の融合が目に見えるようになり、5304時間グループでは恒常的に起きていた。B

E上記の結果から両博士は、仮説的に、超低周波・低周波騒音はラットの呼吸器上皮に先天性と前ガン病変を誘発する遺伝子毒性因子であると結論づけている。B 

Fまた、ラットによる別の実験では、内耳の蝸牛の線毛が融合し、騒音への耐性のなさを示している。@
(以上については超低周波・低周波騒音の曝露周波数・音圧レベルは不明)

3、超低周波・低周波騒音の人体への影響
(ランダムに記載、○内の数字は前掲論文番号)

@超低周波・低周波騒音に暴露した人間のエコー心電図には、拡張期不全の炎症がないのに、心膜肥厚が見られる。これは振動音響病(VAD)の特徴であり、超低周波騒音と心膜肥厚との率に関連している。BC

A1999年、航空機パイロットと客室乗務員のエコー心電図を分析したところ、コックピットに比べて騒音レベルの高い客室乗務員よりパイロットのほうが心膜肥厚の進行が速かった。コックピットと客室の音響分析をしたところ、コックピットの超低周波レベル(20Hz以下)は客室よりずっと高かった。B

B肥厚は、二種類のたんぱく質、コラーゲンとエラスチンの生成・増加による。これらは繊維膜層(繊維症)として形成される。C

Cこうした肥厚は、人の肺と胸膜、心膜、心臓の血管、気管、ラットの肺と胸膜、血管壁、リンパ管壁、耳下腺など、超低周波・低周波騒音に暴露された多くの生体構造で確認できる。これらすべての研究において、炎症プロセスを伴うことは一つもなかった。C

Dコラーゲンとエラスチンの生成は生体組織の炎症によるとされる。しかし、コラーゲンとエラスチンを異常に生成させる振動音響病(VAD)による肥厚には炎症は伴わない。振動音響病(VAD)では、コラーゲンとエラスチンの増加による最終生成物は、生体組織の構造的統合性の増強である。@B

E炎症、たとえば傷を負ったとき、コラーゲンが生成・増強されて傷を癒す。このときコラーゲンの配列は無秩序である。振動音響病(VAD)による肥厚ではコラーゲン、エラスチンの配列はユニットの機能にしたがって秩序だって配列されており、心膜などが肥厚しても心臓機能に異常をきたすことはない。@

F異常に肥厚した心膜は研究チームよって解剖で観察され、心臓超音波診断でも確認されている。しかし、炎症過程はなく、心臓の機能不全も確認されていない。異常に肥大しているにもかかわらず、心臓拡張期不全は認められない。機能不全が認められないので、通常の機能検査では異常は見つからず、エコー診断、CTスキャン、MRI等の断層診断、気管支鏡検査などの気質的検査による診断が欠かせない。これらの検査では容易に組織構造の変化が発見できる。このことは振動音響病(VAD)による身体組織上の変化一般についていえることである。@

G血管壁の肥厚についていえば、振動音響病(VAD)患者が他の医師たちから心臓のバイパス手術を勧められることがままある。@

H296人の振動音響病(VAD)患者を対象にした1999年の研究では、28人に腫瘍が進行しており、うち5人は右肺上葉の扁平上皮ガン、5人は多発腫瘍だった。また、今までのところ振動音響病(VAD)患者の呼吸器腫瘍のすべては扁平上皮ガンであり、10人は右肺上葉の上部に見られ、2人は声門である。一般には、肺の扁平上皮ガンはすべての肺腫瘍の40%を占めているに過ぎない。前記のことは振動音響病(VAD)が引き起こす腫瘍はすべて単一のタイプであることを示している。このことから、両博士は、仮説的に、振動音響病(VAD)は突然変異因子であり、呼吸器官の扁平上皮ガンの原因である、としている。B

I呼吸器と消化管に存在する刷子細胞の表面には微絨毛が満遍なく均一に分布している。ラットの実験では超低周波・低周波騒音を暴露すると、これらの微絨毛は融合(組織融合)し、刈り取られたりくぼみを作ったりして不均一になる。@

J振動音響病(VAD)は遅発性癲癇の原因となる。1980年、OGMAに雇用された306人の航空技術者の10パーセントが遅発性癲癇と診断されている。ポルトガルの一般人の癲癇発症率は0.2パーセントである。ダブリンに住む主婦は振動音響病(VAD)と整合性のある癲癇発作が超低周波・低周波音に汚染された住宅に3年間住んだ後に発症している。@D

K140人の航空技術者の中の24人に呼吸器不全がみられた。24人のうち11人は喫煙者であるが、20人は軽労働をしているだけで症状が現れた。140人中喫煙者は45人、38人は職場で超低周波・低周波騒音に20年以上曝露されていた。この38人のうち22人が遅発性癲癇と診断された。数人は職場を離れると発作がおさまった。2人は振動刺激と視覚的刺激による反応性癲癇であった。@

Lまた、上記140人の航空技術者のうち18人に甲状腺機能不全がみられた。甲状腺機能障害はポルトガルの成人の0.97%であるのに対して、航空技術者の罹患率は12.8%にのぼる。@

Mさらに振動刺激と視覚的刺激は、いくつかのケースで怒りの反応と動作異常を誘発した。バランス障害も一般的症状であり、頭がくらくらするめまいから深刻なめまいまで程度は様々であるが、80人に観察されている。@

Nある港に建設された穀物貯蔵施設近隣に住む夫婦と子どもの3人家族一家は全員が振動音響病(VAD)と診断されている。家族全員に心臓血管構造の肥厚特徴がみられる。もっとも深刻な心臓血管構造の肥厚は、心膜と僧帽弁の肥厚であるが、これは10歳の子どもに見られた。多分、母親が妊娠中から超低周波・低周波騒音に汚染された住宅に住んでいたからであろう。この子どもが5歳のとき、突然目が見えなくなり、病院に運ばれた。そこで脳波癲癇発作を起こし、原因のよくわからない鼻血を頻繁に繰り返した。遅発性癲癇の可能性が高い。遅発性癲癇、鼻血、頻脈、心拍異常、血圧上昇、筋肉痛、関節痛などは振動音響病(VAD)に共通した症状である。@D

O前記Jの家族と比較し、風車近隣(2000kw級4基に囲まれている。1基は住宅から332m、もう1基は642m)に住む家族は振動音響病(VAD)の症状を見せ始めている。この住宅での超低周波・低周波騒音レベル(31.5Hz以下の中心周波数帯域のすべての範囲)はJの家族の住宅より高く測定されている。夫婦は中程度の心膜肥厚を示し、夫はイライラ感の増加、可聴音に対して我慢できない状態に陥ってきている。子どもは記憶や認識に変調をきたすようになってきた。認識プロセスに影響を受けていることが疑われる。家族は闘牛用の牛、馬を飼って生活しているが、馬は日中横たわって寝ているという異常な行動を示している。アルヴェス・ペレイラ博士は、この家族は今後深刻な振動音響病(VAD)になると予測している。D

P振動音響病(VAD)の遺伝子毒性は人間でもラットでも示され、前記したようにネズミの奇形生成が確認されている。@

Q電子顕微鏡の検査によると、振動音響病(VAD)患者の肥厚した心膜片等には異常な量の細胞死が見られる。この特殊な細胞死は、細胞のメカニカルな破裂と関係がある。細胞の残骸が画像の大半で認められる。このような大量の細胞の残骸は、超低周波・低周波騒音曝露にさらされてきた患者に自己免疫疾患が現れることと関連している。@

R振動音響病(VAD)患者の気管支鏡検査はすべて異常を示し、異常な量のコラーゲンがあらたに生成され、血管のベットになっている。また、コラーゲン繊維の破壊が見られる。それは抗核抗体検査がプラスであることと相関関係にあり、自己免疫プロセスに問題があることを示している。@

S2007年3月、ポルトガル労働省は、国立職業病センターを通して、2001年以来振動音響病(VAD)と診断されてきた40歳のフライトアテンダントを100%職業的障害(職業病)として初めて認定した。A

V 結論

生体の気質的異常・病変は、超低周波・低周波騒音曝露による影響と考えられる。 超低周波・低周波騒音音響の周波数は、その波動によって、生体のそれぞれの器官と組織にそなわる固有振動数と共振関係にある。すべての器官と組織は、固有の音響的性質を持っているからである。@

アルヴェス・ペレイラ博士はつぎのように書いている。「固体が振動するとき、その構造的統合性は脅かされる。しばしば構造的強化は、振動する環境に存在できるように構造が適用する対抗策である。空気を伝わる超低周波・低周波騒音が粘弾性のある生体組織へ衝撃(インパクト)を与える場合、このことが細胞のシート(ユニット)の振動という動きの引き金になる。非炎症反応として、生物はコラーゲンを生成する。コラーゲンは組織の機械的強度を与えるたんぱく質の一つである。超低周波・低周波騒音が存在するときのコラーゲンの生成増加は、生物的構造が、その構造的統合性を強化しようとする試みとして解釈することができる。」A

以上

 

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