一日目・2008.11.26(水)・晴れ
AM.10:00
南伊豆町出発。
 
PM.4:00
《細谷風力発電所》到着。
GE
ウインドエナジー 1,500kw・1基。
M & D グリーン(株)」

H・99.95m
タワー・64.7m
ブレードφ70.5m

キャベツ畑が広がりどこまでも平地が続く夕景の中に、突然風車が目に飛び込んで来た。
その風車から 1キロ以上離れているにも関わらず、夜眠れないなどの症状を訴えている“Mさん”にお会いして話を伺うことができた。

この日の風速は12m、南西の風。
ブレードは、今にも止まりそうな速度でゆっくり回っている。風車からの音はこの風況では聴こえない。普段も耳で捉える音はほとんどないそうだ。しかし、よく回っている日の夜などは周りが静かになると、この距離でも音がするのがわかるという。では何故、音は小さいのにこんなに苦しんでいらっしゃるのか?
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@ Mさんの話
「音はしないのに、夜眠れない。眠りに就いても夜中2時か3時頃になると、毎晩妙な感じで目が覚めてしまう。音ではなく、頭の中、耳の奥で『グワ−・グワ−』と 渦まくように聞こえてくる。それが気になり始めるとその時点からもう眠る事ができない。」

風車稼働後、半年経ってから不眠症状が出始め、最初はなぜなのか分らなかったが、だんだんとその響きのリズムが風車の回転と一致している事に気がついたのだと言う。

「頭の中で何かが渦巻く感覚で眠る事ができない。今でも睡眠不足の状態がずっと続いている。」結果、昼間の仕事中に眠くなる。・・・ついに先日、日中の仕事で運転中に睡魔に襲われ、車をぶつける、という事故を起こしてしまった。
夫婦で老後をこの地で送ろうと楽しみにしていたのに、「妻は“眠れない苦しさ”から避難する為、実家に帰ってしまい、この家に戻れずやむなく別居生活が続いている。」

「たった1基の風車が建ったおかげで被害は甚大、生活はめちゃくちゃだ。今でも月一で事業者と話を続けている。」
Mさんは将来、この土地を切り売りしたいと思っていた。「しかし、こんな状況の土地になってしまっては欲しがる人もいないだろう・・・」と語ってくださった。

風車からの距離がある程度離れていても、聴こえない音(低周波音)に苦しめられている方が存在する事に驚いた。(低周波曝露による)“風車病”という病名はまだ確立されておらず、誰にも認めてもらえない。体調を崩した上、ご夫婦が一緒に暮らせない。

“たった1基の風車”で未来設計を壊され、生活は一変した・・・。風車が身近にやってくる現実を、いきなり初日から目の当たりにした。
 
PM.9:30   (風速1〜2m)
田原市六連町に到着。
日中は晴天だったが、日が落ちてから曇り始め小雨がぱらつき始めた。

細谷の風車と同じ機種。細谷風力発電所は『豊橋市』、久美原風力発電所は六連という所にあり、『田原市』となる。離れた場所だが、事業者は同じ“M & D グリーン”が 建てたものだ。まずは、久美原風車の傍まで行き状況を確認した。

《久美原風力発電所》
GE
ウィンドエナジー 1,500kw・1基
M & D
グリーン(株)

H・99.95m
タワー・64.7m
ブレードφ70.5m

 
相変わらず 風速は1〜2mと緩やかで、ブレードはゆっくり回ったり、止まったりの繰り返し。・・・にもかかわらず、タワーの中から『異音』がする。
ウ゛〜ン という低い機械音、それと同時に イ〜〜ン゛と頭の先を通過するような高音が、同時に体を突き抜けて行く。更に風切り音がジュワン・ジュワンと体を包み込む。

Oさん宅近くより久美原風力発電所を望む(GE 1500 kw

そこを離れ、風車から350mの所で被害を受けているOさんのお宅に行き話を伺った。
そこから見る風車はデカい。そして、先ほど間近で聴いたのと変わらない唸り音が聴こえる。
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A Oさんの話
「風切り音が 『シュー・シュー!』と聴こえ続け、機械から出る『ピィ〜ン』という高い音や、『ウ゛〜ン』という 低く唸るような音など数種が連続で襲う。そして、家の壁や床が振動し続ける。」

「風車が建って以来、風車からの音で耳がずっと痛く、頭の後ろ・首の後ろあたりが、    いつも重い。」


「寝る為にからだを横たえると、からだ全体で音と振動を受けるので、とても眠れるものではない。自宅は住める家ではなくなった。」

今は離れたところに自費でアパートを借り、夜になると毎晩家族で避難している。」
と、稼動後からずっと続く様子を話してくださった。風車から近い事もあり、被害状況はかなりひどい。事業者は、そのような被害を近隣に与えた事に対し、きちんと“根本的な解決”に向けて対処したのか?業者の講じた策は次の話に含まれる。

Oさんの話 (つづき)
「風車が稼動してすぐに、( 健康被害を含めた )この事態が発生した。この事態を何とかするよう、事業者に毎週2〜3回は電話をかけ続けた。」
対応は早く、測定をするという事で、ひと月の間に3回くらい業者が測定しに来て中間報告を出した。

・騒音=問題なし(基準値を越えていない)
・低周波=出ている(参照値を越えている)
・床面の振動あり

しかし、
報告は出すが詳細な測定データは全く出さない。それでも最初のうちは避難場所として、事業者はホテルを提供した。その間に風車本体の防音工事と、本体が振動しないよう耐震用のバーを入れたという報告をもらった。
「処置をした」という事業者からの連絡でホテルから自宅へ戻る事になったが、自宅の被害状況は変わっていなかった。振動(低周波)も騒音も依然として何も変わっていない。防音工事に何の意味があったのか・・・。本当に工事を行ったのか?と思ったほどだ。

次の対策として、自宅に二重サッシを入れた。
多少は音が小さくなったが、やはり効果はなく、気になる音は聞こえ続け、家の振動は現在も続く。

「両親が住む部屋は二重サッシで多少は音の軽減ができたので、なんとか“我慢”をして住んでいるが、こちら側( Oさんが住む部屋)はその工事を施してもやはり住める家には戻らない。」
生活を一変させ、苦痛を与えた上に我慢までさせる。そんな巨大な人工物を建てた事に対する事業者の処置は、その場しのぎであって“根本的な解決”には ほど遠いものだった。

「事業者が測定をした後、詳細な測定データをどうしても出してくれないので、中部電力に測定を申し込んだ。中部電力も測定に来たが、やはり測定結果のデータは、公表してくれなかった。」

Oさんは最終的に、愛知県に測定を頼むことにした。
「風のほとんどない日に数時間測りに来た。」(計2回)
県の結果は、『騒音は、基準値以下』という事で処理されてしまった。


「これだけ訴え続けても何も改善されない。 として最低限の安全な生活が戻るには、この風車を止めてもらうか、撤去してもらうしかないと思っている。」
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事業優先、事業ありきで進んでいく不条理な現実。健康を害し、苦痛を訴える人達の声は拡がらないように、やんわりと抑え込まれていく。一体何の為、誰の為の風車か?
建ってしまったらもう遅く、事業者も行政も他人事。被害者の声はどこへも届かないのだと痛感した。

夜半には、風速が落ち風車は止まる事が多かった。それでも回り出せば、騒音・低周波は家の中に入ってくる。家の中でも場所によって振動を感じる所と、感じない場所があった。
奥の廊下が振動したり、横になると畳が ン゛〜〜と微妙に振動しているのがわかる。
部屋の奥の角、天井近くでは唸り音が溜るようだった。

小さな子供さんを持つ彼らが、これらの被害を我慢しなければならない理由は何もない。まったくもって理不尽な話だ。

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